新シーズン開幕早々、オーストラリアの複数の都市で開催された男女混合の国別対抗戦「ユナイテッドカップ」。今回新たに始まった大会では、チームキャプテンを選手が兼任する例も少なくなかった。そんな例を(女子プロテニス協会)公式ウェブサイトが紹介している。
選手がキャプテンも担った例は、出場した全18ヶ国のうち7ヶ国。いつもは自分のことだけ、あるいはダブルスのペアとのことだけを考えていればいい選手たちが、様々な個性と才能を持つチームのまとめ役を任されることになった。年齢やキャリアもバラバラな彼らがその貴重な体験について語っている。
団体戦のキャプテンが担う役割は選手の采配や試合中のアドバイスに留まらず、現地での観光や運営側から求められるコート外での活動が選手の負担にならないように調整し、夕食の手配までしなければならないという。ブルガリアのキャプテンを務めた元世界ランキング3位のグリゴール・ディミトロフは任務について、「僕はその役割を引き受けたんだから、それに伴う負担もすべて受け止めなければいけないと思っているよ」と笑顔でコメント。2012年の国別対抗戦「ホップマンカップ」でも選手兼キャプテンを務めていたディミトロフは、ほかの大会では味わえない、国を代表して戦う大会の雰囲気が「好きで、大切にしてきた」と語る。
母国オーストラリアで開催される本大会の構想が浮上した時、ダブルス元世界女王のサマンサ・ストーサーは単に選手として参加するつもりだったという。通算28個のダブルスタイトルを誇る38歳のストーサーは選手としてチームに加わったが、同時にレジェンドのレイトン・ヒューイットとともにキャプテンを務めることにもなった。そのストーサーより一つ上の39歳でダブルス元世界6位のエドゥアール・ロジェ バセラン(フランス)もこれまでに10人の選手と組んで23個のツアータイトルを獲得しているダブルスのスペシャリストで、最年長のプレーイングキャプテンを務めた。ダブルス元世界23位のキルステン・フリプケンスも、元世界7位のダビド・ゴファンやダブルス元世界女王のエリース・メルテンスを擁するベルギーチームをまとめている。
普段から強烈なフォアハンドや絶妙なドロップショットの合間にトリックショットやアンダーサーブを織り交ぜることの多い元世界30位のアレクサンダー・ブブリク(カザフスタン)は、この大会ではなんと打ち返す寸前に両手でラケットのフレームを持って、グリップにボールを当ててショットを決めている。チームのキャプテンを務めたことについては、彼らしいコメントを残した。「僕にとっては初めての団体戦だから、できるだけ面白くしようと思ったんだ。ほかの大会は真面目なものばかりだからね。いつもとは違うテニスを楽しめる一週間だったよ」
世界4位のステファノス・チチパスと世界6位のマリア・サカーリという男女トップ選手の活躍でベスト4進出を果たしたギリシャのキャプテンを務めたのは、22歳のペトロス・チチパス。チャレンジャー大会やITF大会を主戦場としているチチパスの弟は「僕はまだ若いからキャプテンを務めるのは楽じゃないけど、その面白さを知ることができたし、ほかの選手からもたくさんのことを学ぶことができる」と話していた。また、幼い頃から兄弟そろって「デビスカップ」に出場することが夢だったというペトロスは、それに近いものを今回実現することができたと語る。尊敬する兄ステファノスについては「このチームで一番うまい男子のダブルス選手だよ。僕の次にね」と冗談を交えた。
記者会見で「彼はすごく厳しそう。細かいし」と元世界21位のジル・タイヒマンに笑いながら言われたのは、スイスのキャプテンを務めた元世界3位のスタン・ワウリンカ。「今日遅刻した人に対して喜んで厳しくしたよ」と返したワウリンカは、その対象として「東京オリンピック」のシングルスで金メダルに輝いたベリンダ・ベンチッチの名を挙げている。チームメイトのほとんどは“スタン・ザ・マン”の愛称で知られた全盛期のワウリンカを見て育った世代だ。本大会での彼は“キャプテン・スタン”もとい“スタン軍曹(サージェント・スタン)”として後輩たちを率い、コートサイドから彼らを激励し、ベンチにいるだけで安心感を与えていたという。
ワウリンカは「彼らはみんな素晴らしい選手で、勝ち方を知っている。僕は彼らが助けを求めた時にいつでも手を差し伸べられるようにしておくだけさ」と自分の役割について説明している。実際の試合では、選手と真剣に話し込む姿や、彼らがポイントを取る度にガッツポーズをしている姿が見られた。「ゲーム、競技、競い合うことが好きで、そこに至るまでの過程が好きだ」とテニスへの愛を語ったワウリンカ。そのキャプテンぶりを見守っていたワウリンカのコーチであるマグナス・ノーマン(スウェーデン)は、「スタンが本当に楽しんでいるのがよくわかる。彼はチーム競技が好きだし、今の彼のキャリアからするときっと新鮮なんだろう」と話している。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「ユナイテッドカップ」でのワウリンカ(右はベンチッチ)
(Photo by Darrian Traynor/Getty Images)