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フィリピンテニスの歴史を変え続ける17歳、ナダルのアカデミーで学ぶアーラとは?

「全米オープン」でのアーラ

17歳にして既に、アレクサンドラ・アーラ(フィリピン)は歴史を作ることを生業としている。アーラはフィリピン人選手として初めて、「WTA250 クルージュナポカ」でWTAツアーでの勝利を飾った選手であり、グランドスラムのジュニアの部で優勝した選手でもある。アーラは今年の「全米オープン」ジュニア女子シングルスを制する前にダブルスで2度優勝しており、グランドスラムジュニアで合計3つのタイトルを獲得している。

現在のアーラの世界ランキングは215位であるが、これは昨シーズンより300位以上も上昇しており、こちらもフィリピン人女子選手がこれまでに記録した中での最高位となっている。WTA(女子テニス協会)公式ウェブサイトが報じている。

アーラがジュニアからプロ転向に際してのあらゆる動きが、フィリピンのメディアで紹介されてきた。Instagramでは10万人近いフォロワーがいるアーラは、今月に入ってフィリピン版Vogue誌の表紙を飾った。

「そのことは全部考えないようにしているの」とアーラは13歳の時から練習拠点としているマヨルカ島のラファ・ナダル・アカデミーで語った。「考えると、それに頭を支配されてしまう。大ごとととらえないようにしているの。いつだって、もっと有名な人はいる。私はまだ自分が望む場所に到達していないし、何よりもそのことが私を落ち着かせてくれる。成長したいという意欲と、もっと大きな目標を達成したいという意欲が」

世界のテニスの舞台でこれまでに最も成果を上げたフィリピン系の選手は、アメリカ生まれの2人の男子選手、元世界72位のセシル・マミートと、ダブルス専門のトリート・ヒューイだ。しかし、アーラにはテニス界でのお手本となる人物がいないという考えを本人は否定する。

「私はすごくたくさんの人たちを尊敬しながら育った。これは私の考えだけれど、誰かを尊敬する上で、その人たちが有名である必要はない。家族の誰かでもいい、おじいちゃんやお兄ちゃんとか。彼らは世界的に有名だったわけじゃないけれど、私が尊敬するのはプレーだけじゃない。どれだけ練習に励むかとか、気構えとか。それに、フィリピンにはテニスの才能が溢れているし、テニスへの情熱も溢れているわ」

アーラの祖父であるボビー・マニエゴ氏は、アーラに最初にテニスを出合わせた人物だ。スポーツ界での高い功績に満ちた家族にあって、これは別のものであったかもしれない。アーラの母リザ・マニエゴ・アーラさんは、100メートル背泳で東南アジア大会の銅メダルを獲得しており、叔父のノリ・アーラ氏はフィリピンバスケットボール連盟の元理事である。しかし、アーラは祖父と兄のマイケルとの絆を深める手段としてテニスに魅力を感じた。兄は現在、アメリカのペンシルバニア州立大学でプレーしている。

「それからどんどんエスカレートしていったの。それによってもたらされる挑戦が好きだったし、そういう挑戦を乗り越える感覚が好きだった。とても報われるの。テニスのおかげですごくたくさんの人たちと親しくなれたし、まだ短い私の選手生活の中でも、既に多くのことを学ぶことができた。スポーツ選手としてだけじゃなく、人として。どうやって計画し、実行するかとか、どうやって線引きするかとか。こういうことは、選手生活が終わった後でも役に立つことだとわかる」

ツアーでの多様性が増すことで、大会での「本当に素晴らしい空気」が生まれるとアーラは考えている。同じように先駆的な役割を果たしているオンス・ジャバー(チュニジア)やマヤル・シェリフ(エジプト)、そしてジュニア仲間のビクトリア・ヒメネス カシンツェワ(アンドラ)たちを、その例として挙げた。アーラは、そうできる時にはフィリピンの文化を披露しようと熱心だ。「全米オープン」ジュニアの部で優勝を果たした後、アーラはファンたちにタガログ語で語りかけた。

「そうね、あのスピーチはすごく注目されたって聞いた。私にとっては大事なことなの。だって、世界のテニスの舞台にはあまりフィリピン人が見当たらないから。私たちはすごく愛国的だと思うし、自分たちの文化が大好きで、私も自分たちの伝統や文化を誇りに思いながら育った。だから私はただ自分のそういう面をコート上へ、そして私のキャリアへ持ち込んでいるだけ」

2022年、アーラは初期の失望を乗り越えて、45勝20敗という好成績でシーズンを終えた。この成績には、タイのチェンライで獲得した初のITF(国際テニス連盟)W25大会でのタイトルも含まれている。

「今年の初めはすごく苦しんだ。休暇の間にいくつかのことが重なったの。新型コロナウイルスに感染したし、体調を崩したり何度か怪我もした。だから年の初めはちょっと不安定だった。でも耐え抜いて、後半は素晴らしいものになったわ」

アーラは個人的なハイライトとして、ある試合を挙げる。10月にフランスのポアティエで行われたW80大会の準々決勝で、ジェシカ・ポンシェ(フランス)に6-2、5-7、7-6(6)で勝利した試合だ。この手ごわい選手に今年に入ってから2度続けてストレート負けを喫していたアーラは、形勢を逆転する過程で6本のマッチポイントをしのぐことに成功した。

「すごくたくさんの浮き沈みがあって、本当にどちらに転んでもおかしくなかった。それまでの時と比べて、身体的にも、戦術的にも、心理的にも、とてつもない成長を実感できた。どうやって冷静さを保ったのかは考えないようにしているの。わからないのよ。考えすぎてはだめで、ただ自分のプレーを信じなければいけないわ」

数週間後に開幕の迫った「全豪オープン」(オーストラリア・メルボルン/1月16日~1月29日/ハードコート)で、グランドスラムの予選に初出場することが決まったアーラは、マヨルカでプレーに磨きをかけ続けている。重みのある左利きのフォアハンドを中心に、ナダルとの共通点があるのは明らかだ。ナダルのアカデミーで訓練を始める前でさえ、アーラはこのことを理由に、自分はナダルのファンであると話していた。しかし、今年頭角を現す上でカギとなった領域が1つあり、それは2023年にツアーへの躍進を狙う中でさらに重要性を増すとアーラは言う。

「身体の状態よ。子どもの頃から、私は飛び抜けて身体ができているというタイプではなかった。でも今年のシーズン前にはそれに注力したの。そして今年すごく飛躍を遂げた。これからもっと良くしようとしている。それが私のテニスを次のレベルに引き上げるための、次の一歩でしょうね」

目指すものに向けたアーラのプロらしいひたむきな集中を見れば、彼女の次のレベルは2023年に注目すべきものになりそうだ。

(WOWOWテニスワールド編集部)

※写真は「全米オープン」でのアーラ
(Photo by Tim Clayton/Corbis via Getty Images)

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