初めてシード選手として四大大会に臨んだ第31シードの西岡良仁が、順当に3回戦に進出した。ここまで失セット0。貫禄さえ感じさせる勝ち上がりだ。好調ぶりを支える要因の一つが、その類い希なパーソナリティだ。今大会の記者会見での発言や以前のコメントから、その個性を描いてみたい。
「対戦したくない相手」というのを最初のキーワードに挙げたい。1回戦の試合後の記者会見で〈昨年後半から好調で、周囲の選手からの視線の変化を感じるか〉と聞くと、こんな答えが返ってきた。
「それは試合をやっている中で感じると思う。もともと、(試合を)やりたいと思われるようなスタイルではない。(ラリーや試合時間が)長いし、嫌われてるっていうより、やりたくない選手の一人だったと思う。長いからとか、ミスしないからとか、いわゆるめんどくさい相手だったと思う。それが今はもう、僕がフォアハンドをある程度打てるようになっているのが、良いコーチが見れば分かると思うので、(以前の自分に)プラスアルファで、嫌な部分は増えていると思う。向こうの気持ちの持ち方は大分違うと思う。ただ長くて、入れるだけではなくなったっていうので、(相手に)心境の変化を与えられる」
対戦したくない相手、相手から嫌われるような選手--10代前半で渡米、IMGアカデミーで揉まれていた頃から、西岡はそんなプレーヤーを目指したはずだ。「嫌な部分は増えている」というのは、理想にまた一歩近づいたという自信のあらわれだ。
以前から、強烈なトップスピンでボールを跳ね上がらせることで、あるいはスピン量を大胆に調整して跳ね方に変化をつけることで、相手のショットの「芯を外す」ことに努めてきた。それだけでも十分に嫌な選手だ。さらに近年のフォアハンドの展開力、決定力は、このショットに弱点を抱えていたプロデビューの頃とは別人のようだ。それを西岡は「嫌な部分は増えている」と喜ぶのだ。
同じく芯を外す目的で、クイックモーションを交ぜたり、トスの位置をずらす、というようなトリッキーなサーブを打つことも多かった。西岡はこう断言する。「人から見たら、(タイミイグやトスを頻繁に変えると)サーブが崩れると言われるが、僕はそれで相手の芯を外せるならそれでいいと思う」。
たとえ常識的には“やってはいけない”とされていることでも、目的に近づくためなら、すなわち、相手が嫌がるなら、積極的に試みる、それが彼のテニスに対する向き合い方だ。
常識が通用しない、規格外という意味で、こんなコメントも紹介したい。
「僕はイライラしてるときの方が集中できる」
快勝した2回戦のあとの記者会見での発言だ。だれもが「ほんとかよ!?」と思うだろう。ただ、実際に試合を見て、その直後に彼の口からこれを聞けば、「あ、そうなのか」と思わされる。
「去年の中ごろから、イライラすることが良くないのかいいことなのか、いろいろ考えながらやっている。今日みたいな展開で、それこそスタートの時点で自分が負けるパターンがほぼないだろうと分かったときに、やっぱり気が抜けてくるので、それがすごく嫌だった。『あ、勝てるだろうな』と思ったが、そうなると、(自分が)何かよくないこと、なんか意味わからんことやりだすとよくないと思ったので、あえて自分でイライラしようとした。早く、ちゃんと終わらせるために。僕は結構イライラしてるときの方が集中ができるので」
〈スタートの時点で自分が負けるパターンがほぼないだろうと分かった〉というのも大胆発言だし、そうなると〈気が抜けてくる〉というのも大物ぶりをあらわしている。ただ、そこはスルーすることにして……。
世間の常識にがんじがらめになった我々には、それこそ「意味わからん」発言だ。だが、実際にこの2回戦の第2セット中盤、西岡はやや唐突にイライラした様子を見せ始め、怒りの感情をコーチにぶつけ、そうして試合を「ちゃんと終わらせ」た。わざわざ自分の感情を波立たせ、少し回り道して高い集中を勝ち取ったのだ。
自分で考えることができる選手であるのは間違いない。思考回路も表現の仕方も独特だが、それは情報を取り入れ、咀嚼し、自分で考え抜いた末に自分の言葉として定着させた結果なのだと思う。3回戦以降、破天荒な異才がどんなプレーを見せ、どんな言葉を紡ぐか、楽しみでならない。
(秋山英宏)
(写真:全豪オープン2023での西岡良仁)
(Photo by Kelly Defina/Getty Images)
「全豪オープンテニス」1/16(月)~1/29(日) ※大会第1日は無料放送
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【男子シングルス1回戦】 綿貫陽介 vs A.リンデルネック
【男子シングルス1回戦】 M.イーメル vs 西岡良仁
【男子シングルス1回戦】 E.エスコビード vs ダニエル太郎
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【男子シングルス1回戦】 M.ギロン vs D.メドベージェフ
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